はじめに
ぎっくり腰の発症から数日が経つと、鋭い痛みそのものはやや落ち着く一方で、背中からお尻、股関節にかけて重だるい「張り」を感じるようになることがあります。
この「痛み」と「張り」は似ているようで性質が異なり、それぞれに適したケアの方法があります。
前回は発症2日目の防御的収縮について解説しました。
今回は3〜4日目に差しかかる時期の考え方と、自宅でできる具体的なセルフケア、そして痛みを客観的に把握するための評価方法について、理学療法士の視点から解説します。
この時期に重要な2つの考え方
発症から数日が経過し、しびれや筋力低下といった神経症状が見られない場合、痛みの原因は筋肉や筋膜由来である可能性が高くなります。
この段階で重要になるのが、以下の2点です。
- 痛みの出現回数・頻度を減らすこと
痛みを感じるたびに、周囲の組織は防御的に緊張し、動かないように固まろうとします。
この防御反応が続くと、損傷部位の修復に必要な血流が滞り、回復が遅れてしまいます。 - 患部や周辺の過剰な筋緊張をゆるめること
痛みのない範囲で少しずつ動かす、あるいは筋肉を優しくほぐすことで、緊張状態を軽減できます。
これは、緊張し続けている筋肉自体が新たなダメージを負うリスクを下げることにもつながります。
なお、椎間板ヘルニアなどの可能性を完全に否定できない段階では、無理な動きは避け、痛みのない範囲での対処にとどめ、整形外科などを受診してください。
なぜ「動かさない」ことが逆効果になり得るのか
神経の圧迫が疑われる怪我の場合、動かすことで炎症が悪化しやすいため、安静が優先されます。
しかし、筋肉・筋膜由来の腰痛の場合は事情が異なります。
動かさないこと自体が、症状を長引かせる要因になり得ます。
筋肉が緊張した状態が続くと、周辺の毛細血管の血流が低下します。
毛細血管は自らポンプのように働く仕組みを持たないため、筋肉が伸び縮みすることで血流が促されます。
痛みの原因となる発痛物質(ブラジキニンなど)は、血流に乗って代謝されていきますが、血流が滞ると患部に留まり続け、痛みが長引く環境を作ってしまいます。
これを避けるためには、痛みのない範囲で少しずつ身体を動かしていくことが重要です。
テニスボールを使ったセルフリリース
この時期に有効なセルフケアの一つが、テニスボールを使った圧迫による筋肉のリリースです。
フォームローラーよりも狭い範囲にピンポイントで圧をかけられるため、腰の外側や股関節前面など、特定の部位をほぐすのに適しています。
腰の外側(腰部の筋群)をほぐす
横向きに寝た状態から、少しずつ仰向けに体を倒していき、腰と床の間にテニスボールを挟みます。
痛みのある背骨のすぐ脇は避け、その少し外側にボールを当てるのがポイントです。
全身の力を抜き、深呼吸をしながら圧迫を続けてください。
膝の下や間にクッションを入れると、より脱力しやすくなります。
身体が沈み込むような感覚が出てきたら、その状態を30秒〜1分ほど保持します。
1か所終えたら少し位置をずらし、心地よい強さで感じられる場所を2〜3か所行うと、周辺の筋肉が効果的にほぐれます。
痛みを我慢して圧迫を続けることは避けてください。
股関節前面をほぐす
腰まわりのケアに慣れてきたら、股関節の前側(大腿筋膜張筋・中殿筋前部繊維など)もほぐしていきます。
ぎっくり腰の初期は、腰を丸めないよう体幹を固定する姿勢を保つことが多く、その結果、相対的に腰が反った状態が続き、股関節前面の筋肉が過緊張しやすくなります。
横向きに寝て、骨盤と大腿骨の間あたりにテニスボールを当てます。
この部位は腱のような線維性の組織が多く、痛みを感じやすい場所ですが、腰の外側と同様に、深呼吸をしながらゆっくり圧迫を続けることで徐々に緊張がゆるんでいきます。
痛みが強い場合は、ボールと身体の間にバスタオルをたたんで入れると、圧迫する箇所が広がるため、痛みが軽減しやすいです。
痛みを「数字」で把握する
セルフケアを続ける上で、痛みの変化を主観的な感覚だけに頼らず、数字で記録することは有効です。臨床の現場でよく使われる指標に、以下の2つがあります。
- NRS(Numerical Rating Scale):0を「痛みなし」、10を「想像できる最大の痛み」として、今の痛みを数字で表現する方法です。
- VAS(Visual Analog Scale):10cmの水平な線を引き、左端を「痛みなし」、右端を「最悪の痛み」として、今の痛みの位置を指し示す方法です。
痛みは主観的なものであり、他人と比較できるものではありません。
しかし同じ人が継続して記録することで、回復の傾向を客観的に把握しやすくなります。
「昨日より少し楽になっている」という感覚を数字で確認できると、セルフケアを続けるモチベーションにもつながります。
「原因がはっきりしない腰痛」は珍しくない
腰痛の85%は、レントゲンやMRIで明確な原因部位を特定できない「非特異的腰痛」に分類されると言われています。
椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症のように画像上で原因が特定できる「特異的腰痛」は、実は腰痛全体の一部に過ぎません。
「画像では異常がないと言われたのに、痛みが続いている」というケースは決して珍しくなく、その背景には、画像では捉えにくい筋肉の緊張状態が関わっていることが多いと考えられています。
だからこそ、主観的な痛みの変化を丁寧に追うことが、セルフケアを続ける上で大きな手がかりになります。
セルフケアをサポートするグッズ
- テニスボール:腰の外側や股関節前面など、狭い範囲をピンポイントでほぐすのに適しています。
- 腰椎コルセット:日中の活動時、体幹をサポートし痛みの出現頻度を減らすのに役立ちます。
まとめ
発症から3〜4日目は、痛みそのものよりも「張り」が主な症状として現れやすい時期です。
動かさないことがかえって回復を遅らせる可能性があるため、テニスボールを使ったセルフリリースで、腰の外側や股関節前面の緊張を少しずつゆるめていくことが有効です。あわせて、NRSやVASで痛みの変化を記録することで、回復の実感を得やすくなります。
フォームローラーを使ったセルフリリースに関してはこちらの記事を参照してください。
次回は、干渉波治療とマッサージガンを使った、より積極的なケアの段階について解説します。


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