身体のプロがぎっくり腰になったら ―― 第3話 痛みと“張り”の境目を探す2日間

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ベッドから這い出すだけで精いっぱいだった2日目が終わり、迎えた3日目の朝。痛みそのものはわずかに落ち着いたものの、今度は背中からお尻、股関節にかけて重たい“張り”が広がっていました。
理学療法士として「組織損傷の痛み」と「防御性スパズムによる張り」は分けて考えなければ……と頭では理解していても、実際の身体はひと塊のように固まります。ドローインで腰を守りつつも、張りを解かないと血流は戻らない。
そこで私はテニスボールとストレッチを試してみることにしました。狙うのは腰の外側、そして股関節の前面。ここが緩めば、痛みと張りの境界線が見えてくるはず――。
本稿では3・4日目の試行錯誤を等身大で記していきます。

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3日目

起床

やはり起床時は身体中の関節がギシギシと音を立てるような気がするほど、スムーズには動けません。
今日もゆっくりと四つ這いになってから起きていきます。ただ、昨日と比べると全く動けないと言う感じではないようです。
今日も症状の確認から始めていくと、右腰の痛みは同様で、下を向くと増強します。筋肉の突っ張る感じは、範囲は変わらないものの、やや軽減しているでしょうか。神経症状を示すような、力の入らなさ、感覚の異常、しびれは今日も出ていません。
昨日から痛み止めの薬を飲んでいる影響も考慮すると、単純に軽快しているとは言えない状況ではありますが、階段を降りる際も手すりにしがみつくと言うよりは、軽く持って降りることが出来ました。

3日目にしても、神経症状を示すような所見は出てこないところを見ると、いわゆる、筋や筋膜性の腰痛と考えることができるようになってきます。
椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などもゆっくりと症状が進む場合もあるため確定はできません。しかし、そのような怪我や病気の場合に出現するであろう神経症状がないということは、おそらく筋肉やその周辺の組織の問題である可能性が高まるとも言えます。

対策

では、このような時期の重要な考え方はどのようなことでしょうか。
一つは、痛みの出現する回数や頻度を可能な限り減らすことです。筋肉や筋膜(簡単に言うと筋肉や筋肉を構成する細胞を包む薄い膜のようなもの。)などの組織の損傷による痛みである場合、痛みを感じれば感じるほどに周りの組織を緊張させて、動かないように防御することになります。それら防御的な筋肉の過剰な活動は、損傷した箇所の修復に必要な栄養素を供給する血流を減らし、修復を遅らせることになるためです。

二つ目は、患部や余計な筋肉の緊張を軽減させることです。一つ目の痛みの回数を減らすことでも緊張を軽減させることは可能ですが、さらに、痛みの無い範囲で少しずつ動かすことや、筋肉をほぐしていくことが重要となってきます。過剰な活動をしている筋肉自体を二時的に損傷させるリスクを軽減させることにも繋がります。

とはいえ、筋肉自体の痛みはまだ強く、下を向くと出る痛みは、強さは軽減しているものの出現します。椎間板ヘルニアなどの可能性は完全否定はせず、痛みの管理、筋肉を痛みなく動かすこと、ほぐすことを少しずつ取り入れていくイメージになるでしょうか。

軽い体操

朝の身支度の前に右腰には湿布を貼り、コルセットを着けて、痛みの出にくい環境を作ります。
また、歯磨きをしながら今日もドローインをしていきます。
さらに今日は左右のお尻に交互に力を入れていきます。
いわゆる腰痛といっても、痛む箇所はかなり個人差があり、お尻のあたりが痛む場合や、足の付け根の前側が痛む場合など、かなり色々な症状が腰痛と表現されます。今回は背中側で、骨盤の上の右側に出現しています。この辺りは腰背筋膜や胸腰筋膜と言われる繊維性の組織が存在しています。これらは背面の様々な筋肉と繋がっているのですが、お尻の筋肉の力を入れたり抜いたりすることで、ほぐれやすいと言う性質も持っています。背中の筋肉の緊張を緩めるためにも、お尻の運動は大切なんですね。
片方の踵に踏み込むように力を入れるのと同時に、反対の足にかかっている体重を減らすようにすると、膝が伸びていれば自然とお尻に力が入りますので、交互に、痛みのない範囲で10回ほど行いました。

運転・仕事

車に乗るとやはりジワジワと違和感が出てきます。右のお尻周りはなんだかしびれるような感じもしますが、体重のかかり方を変えると消えるため、昨日よりは楽に運転できました。ただ、無理はせず途中一度休憩を入れつつ職場に到着しました。

仕事中はやはりドローインと股関節の動きを意識して現場に立ちます。首を下に向けると腰に出る痛みはまだ出ますが、心なしか少し痛みも小さいような感じがしました。

メンテナンス

帰宅後は、よりメンテナンスに力を入れていきます。
骨や関節、神経が由来となるような症状(しびれや筋力低下など)はみられないため、おそらく筋・筋膜性腰痛の可能性が高いかなと考えられます。
普段の生活では、痛みの発生頻度を減らすことと、不要な筋肉の緊張を強めるような無理をしないことが大切ですが、メンテナンスは少し変更が必要です。

神経などの絞扼による疾患の場合(椎間板ヘルニアなど)は動かすことで患部の炎症が増悪しやすいです。そのため、基本的に安静にしていることが大切でした。
しかし、筋・筋膜性腰痛と考えられる場合、動かさないことがより症状を増悪させることにつながります。これは、不動によって痛みを生じている筋肉の緊張感が増えてしまうことによります。
筋肉が緊張することで、その周りの毛細血管の血流量は減少してしまいます。毛細血管はそれだけでは心臓のようなポンプの作用を持たないため、周りの組織、主に筋肉が伸び縮みすることが血流量の増加に直接繋がります。

痛みは血管内の血漿から生じるブラジキニンなどの発痛物質が患部に集まることで生じます。それら発痛物質は患部にやってきた後、血流に乗って代謝されていくのですが、血流が滞ってしまうことで発痛物質が患部に留まり、痛みが持続してしまう環境になってしまいます。これを避けるためには、痛みのない範囲で少しずつ動かしていくことが何より大切になってきます。

テニスボール

そこで今日は、一番痛みを生じている箇所の周りの筋肉をほぐしていきます。一番の痛みは腰椎のすぐ右側ですのでそこには触れず、腰の背面の外側(腰部の腸肋筋や腰方形筋など)の筋肉にアプローチしていきます。

方法としては、左下の横向きで寝た状態から少しずつ仰向けに転がっていき、ここで腰と床の間にテニスボールを挟んで、気持ち良い程度に圧迫していきます。
なるべく全身がリラックスできるように、深呼吸をしながら行うとより良いでしょう。また、足の置き場に困る場合は膝の下や間にクッションを入れるなど、頭の先から足の先まで、可能な限り脱力した状態を作っていきます。この状態で動かさずに深呼吸をしながら体勢をキープします。
この時に、テニスボールが筋肉に入り込んでいくような感覚が得られていると上手にできている証拠です。筋肉の緊張感が軽減しほぐれることで、身体が沈んでいくように感じるわけです。途中で痛みがある場合は圧迫の程度を減らしたり、当たっている場所をずらしたりしましょう。

身体が沈むような感覚を得てから30秒~1分程度保持します。これが出来たら少しボールの位置をずらして再度行うと良いでしょう。気持ち良い感覚がある場所で3か所程度行えると、周辺の筋肉はかなりほぐせていると思います。ご自身でやるときは、決して痛みのある場所に我慢して行わないようにしてください。
このように痛みのために二次的に緊張感を増していた、患部周辺の筋肉はリラックスすることができるようになり、血流が改善していくと考えられます。この日は、背中や腰の強い痛みのない箇所と、お尻、股関節の前側など何か所かをほぐしてから就寝しました。


4日目

起床

痛みが出てから4日目となりました。
昨日と比べて、起床時の痛みは、昨夜のテニスボールマッサージのおかげか軽減しているように感じます。ただ、やはり下を向いた時の腰の痛みは、場所、強さともに大きな変化はありません。やはり急激な痛みが右の腰、背骨の近くに出現します。初日と比べると少しだけ弱い痛みになっているようではありますが、10段階で7が6になった程度でしょうか。

痛みの評価方法

ところで、この痛みを数字で表すという行為は非常に重要です。様々な評価指標が存在しますが、現場でよく使うのはNRSやVASといったところでしょうか。NRSはNumerical Rating Scaleの略で、0を「痛みなし」、10を「想像できる最大の痛み」として、現在の痛みの強さを数字で表現してもらいます。VASはVisual Analog Scaleの略で、紙に10cmの水平な直線を引き、左端に「痛みなし」、右端に「最悪の痛み」と書き、現在の痛みを直線状で指示してもらう方法です。

痛みは常に主観的なものであり、客観的に他者が評価できるものではないため、ほかの人と比べることは決してできません。ほかの人が「そんなに痛くないでしょ。」とか、「気のせいでしょ。」と決めつけることも出来ないと言えます。
痛みは筋肉の緊張具合や筋力、関節の可動域をはじめ、その日の体調や自律神経系の状態、気候や気分にも左右されるため、ほかの人には分かってもらえないと感じている方も多くいらっしゃいます。

ただ、同じ人で計測を続けていると、かなり詳細に症状を表していることに気付くことがあります。
どうしても長丁場になるリハビリテーションの現場において、筋力や可動域の変化による歩容の変化が、表現してもらった痛みの変化に如実につながっていることを非常に多く経験します。
痛みの軽減は表情が明るくなることと同時に起こることが多いため、分かりやすい部分もありますが、この瞬間が現場に立つ醍醐味であるとも言えます。

逆に、「痛い」となったら、そこには必ず何かがあると考えるほうが良いとも言えます。仕事をしていてよく聞くのは「レントゲン上は問題無いって言われた。」っていう声です。痛みを何とかしてほしくて病院で訴えているのに、画像上は問題無いって言われても、話が食い違っていますよね。

現在の医学でも、腰痛の85%は「非特異的腰痛」と言われています。腰痛症のうち、レントゲン写真やMRI画像などで原因部位がはっきりしている腰痛を「特異的腰痛」といい、脊椎分離すべり症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症などがありますが、対して今回の私のような、ぎっくり腰など原因がはっきりしない腰痛を「非特異的腰痛」といい、腰痛症のほとんどが画像ではっきりと原因部位を同定できないのが現実なんです。
ただ、やはり痛みがあるということはその周辺組織に何らかの要因がありそうと考えると、画像では捉えにくい筋肉の緊張の状態が要因として考えられると言えるのではないでしょうか。その筋肉の状態変化を導出できる画像診断方法は、様々研究が進んでいます(超音波エラストグラフィーなど)が、簡便に現場で使えるものは今のところまだ多くありません。

そこで、先ほどの主観的な痛みの変化が大切になってきます。我々は筋肉に毎日触れながら、その状態の変化を探っていますが、その変化と主観的な痛みの変化はリンクすることが非常に多い印象です。また、痛みを数字で表現することで、精神的にも自身の変化を追いかけやすくなるのではないかとも思います。
下を向いたときの腰の痛みの変化はNRSで1点程度の改善です。しかし、悪くなっていないということ、軽減に向かっているということは、専門職の自分にとっても大きく、不安が少し和らいだ感じがしました。

運転・仕事

身支度を済ませて、仕事に向かいます。痛み止め、シップ、コルセットは今日も無理せずに活用します。車に乗っていても、腰回りが重たい感じはするものの、休憩なしで職場まで運転することが出来ました。
仕事中もドローイン、股関節の動きに気を付けて、張る感じが強い時はお尻の筋肉に力を入れたり抜いたりしながら、なんとか仕事を終えることが出来ました。

メンテナンス

帰宅後のメンテナンスは、入浴後、昨日と同様にテニスボールを使って行っていきます。背中や腰の中で強い痛みのない箇所と、お尻、股関節の前側などをほぐしました。なかでも気を付けてほぐしたのは、大腿筋膜張筋や中殿筋前部繊維と言われるような、股関節の前側を通る筋肉です。

今回のような腰痛がある場合、腰を丸めるような動きは腰回りの筋肉が引っ張られるため、痛みが出現しやすいため、ドローインを意識することが重要と何度も書いてきました。
ただ、この姿勢を保持し続けると生じる弊害が、股関節の前側の筋肉の過緊張です。腰を丸めない姿勢は、相対的に反っている時間が増えすぎてしまうことを意味します。
骨盤全体が前に傾く時間が長いと、骨盤と大腿骨の間の、前側の隙間は狭くなります。この時に股関節の前側を通る大腿筋膜張筋や中殿筋前部繊維が過剰な緊張により、固くなりリラックスしにくくなります。これは、腰が痛い時の、周りの筋肉の過剰な緊張状態と同じように、血流を阻害し、痛みが出現しやすい環境を作ってしまいます。

そこで、右下で横向きになり、骨盤(ドローインの時の親指に当たる場所)と大腿骨の間の位置にテニスボールを入れてリラックスをします。
この位置は実は非常に痛みが強い場所です。
股関節の前側は筋肉というよりは腱のような硬い繊維が多く、筋肉そのものよりも腱などの線維性の組織のほうが感覚を感じる受容器の数も多いといわれています。そのため、昨日腰回りの筋肉をほぐした時と比べても痛みは強いです。

自分も最初は、大丈夫なのか心配になるくらい痛かったです。しかし、昨日と同様に、深呼吸しながら全身的にリラックスしていくことで、痛みは徐々に軽減していきます。身体が沈んでいくような感覚があってから30秒程度保持して、少し場所を変えます。計3か所、股関節周辺をていねいにほぐしていくと、腰回りはかなり軽くなり、なんだか温まるような感覚もありました。心なしか、久しぶりにリラックスして眠ることができたように感じます。

おわりに

テニスボールで腰の外側と股関節前面をほぐした夜、張りの奥に埋もれていた芯の痛みが少しだけ輪郭を失いました。翌朝、恐る恐る首をうなずいてみると――電撃は確かに弱まっています。
「これは反撃のチャンスかもしれない」。
そう感じた私は、仕事終わりに院内の干渉波治療器を引っぱり出し、さらに“奥の筋肉”を狙うことにしました。多裂筋(たれつきん)という腰椎の最深部を支える小さな筋肉です。
次回は、干渉波とマッサージガンを使って一気に痛みスコアを7→2へ落とすまでの“反撃パート”5・6日目をお届けします。
回復の兆しと、偶然かもしれない劇的変化――ぜひ見届けてください。

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