――“歩く”を科学で磨き、だれでも体力アップ――
はじめに ――理学療法士だからこそ感じる“歩く”難しさ
「歩けています」と言う患者さんでも、体力(持久力)を高めるほどの負荷を日常に取り入れるのは意外と難しいものです。理学療法士としてリハビリや運動指導をしていると、
- 痛みや疲労が強く強度を上げられない
- ウォーキングは続くが、運動の効果が頭打ちになってしまう
- 忙しくて運動時間が確保できない
- 歩けるがジョギングは出来る気がしない
――こんな“難渋ケース”によく出会います。
そこで活用したいのが、信州大学の能勢博先生が提唱するインターバル速歩(Interval Walking Training:IWT)。「速歩き3分」と「ゆっくり歩き3分」を交互に繰り返すだけで、短時間でも筋力・心肺機能を同時に高められると報告されています(こちら)。 本記事では、先生の著書『ウォーキングの科学』(ブルーバックス)を土台に、2023〜2025年の最新研究も加味しつつ、
- インターバル速歩のしくみ
- 期待できる効果
- メリット・デメリット
- 実践プログラムとコツ
- 安全に続けるポイント
――をやさしく解説します。

第1章 インターバル速歩とは?
1-1 基本のやり方
- 速歩き3分+ゆっくり歩き3分=1セット
- 1日5セット(合計30分)、週4日が標準的な目安
1-2 “最大体力”を基準にした負荷設定
運動強度を決める指標に「VO₂MAX(最大酸素摂取量)」があります。これは「1分間に体が取り込める酸素の最大量」で、体力のエンジン排気量のようなもので、全身持久力の指標です。
IWTで勧められる速歩きの強度は、VO₂MAXの約65〜75%。数字だけではピンと来ないので、次の目安を参考にしてください。
| 強度 | 体感(RPE※) | 心拍数 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 65% | 12~13 | 最大心拍※×0.65 | 息が弾むが会話は可能 |
| 75% | 14~15 | 最大心拍×0.75 | 会話が途切れがち、汗ばむ |
※RPE:後述。最大心拍は「220−年齢」で概算できます。
強度65~75%は、40歳の人だと(220-40)×0.65=117 で心拍数117~135回/分です。
1-3 HIITとのちがい
高強度インターバルトレーニング(HIIT)は最大心拍の90%以上に達しますが、IWTは中強度。同じ“インターバル”でも、安全性と継続しやすさが大きな強みです。
第2章 体の中で起きる6つの変化
ここでは専門用語をかみ砕きながら、IWTが体に及ぼす主な作用を説明します。
① 血管内皮機能の改善
速い→遅いを繰り返す刺激で血流が大きく変動すると、血管の内側(内皮細胞)から「一酸化窒素(NO)」という“血管をゆるめるガス”が多く出ます。NOが増えると血管がしなやかになり、高血圧や動脈硬化の予防につながります。(こちら)
② ミトコンドリア増生
筋細胞内のミトコンドリアは“発電所”。強弱をつけた運動はAMPKというエネルギーセンサーを活性化し、ミトコンドリアの数と質をアップ。結果として持久力(VO₂MAX)向上が期待できます。(こちら)
③ 脂質代謝の促進
速歩きフェーズで脂肪を燃やす酵素(リパーゼ)がスイッチオン。ゆっくり歩きで酸素供給が追いつき、脂肪酸が効率よく燃焼します。これを繰り返すことで内臓脂肪の減少が報告されています。
④ 骨への適度な刺激
通常のウォーキングより着地衝撃がやや強くなるため、骨に“ミクロの負荷”がかかり骨リモデリング(古い骨が壊れ新しい骨が作られる)が進みます。特に閉経後女性で骨密度が改善した研究があります。(こちら)
⑤ 自律神経の調整
強→弱の切り替えは交感神経(アクセル)と副交感神経(ブレーキ)のリズムを整え、ストレス耐性の強化や睡眠の質向上に寄与します。
⑥ 認知機能サポート
全身血流が上がることで脳への酸素と栄養が増加し、BDNF(脳由来神経栄養因子)と呼ばれる“脳の肥料”の分泌が促進。記憶力や注意力の向上が報告されています。
第3章 科学が示す主な効果
3-1 生活習慣病リスクの改善
IWTを20週間行った中高年では、善玉コレステロール(HDL-C)が増加し、VO₂MAXが約10 %向上。食事や日常活動を変えずに血糖値・血圧も低下しました。(こちら)
用語メモ
HDL-C:血管壁のコレステロールを肝臓に戻す“掃除屋”。数値が高いほど動脈硬化になりにくい。
3-2 骨密度アップ
閉経後女性234名を対象にした研究では、もともと骨密度が低い人ほど、5か月後の骨密度が有意に上昇。薬に頼らない骨折予防策として注目されています。(こちら)
3-3 高齢者の歩行機能改善
平均79歳の高齢者で、IWT群は6分間歩行距離が大幅に伸びたことが米国紙で紹介されました。日常生活能力(ADL)の維持にも有効です。
第4章 メリットとデメリット
メリット
- 時間効率:30分で有酸素+筋力刺激
- 器具不要:場所を選ばない
- 安全性:ランより関節負担が小さい
- 高齢者OK:骨・筋・脳までマルチ効果
デメリットと対策
課題1:速歩がきつい
→速歩2分+ゆっくり4分から開始
課題2:続かない
→スマホアプリでセット数を“見える化”
課題3:天候
→大型ショッピングモールや屋内トラックを利用
課題4:関節痛
→クッション性の高いシューズ+フォーム確認
第5章 実践プログラムとコツ
5-1 RPEを使った強度管理
「RPE(Rating of Perceived Exertion)」とは「自分がどれくらいきついと感じるか」を6〜20で数値化するスケールです。
| 20 | ||
| 19 | very,very hard | 非常にきつい |
| 18 | ||
| 17 | very hard | かなりきつい |
| 16 | ||
| 15 | hard | きつい |
| 14 | ||
| 13 | somewhat hard | ややきつい |
| 12 | ||
| 11 | fairly light | 楽である |
| 10 | ||
| 9 | very light | かなり楽である |
| 8 | ||
| 7 | very,very light | 非常に楽である |
| 6 |
自覚的運動強度(RPE)
IWTの速歩きではRPE12〜15(普段より速い歩き、会話は可能〜きつい息が弾み、会話が途切れるレベル)、ゆっくり歩きはRPE9〜11(ゆっくり散歩レベル)が目安です。
5-2 レベル別プログラム(例)
| レベル | 速歩:ゆっくり | セット/日 | 週頻度 | 期間 |
|---|---|---|---|---|
| 入門 | 2分:4分 | 3 | 3 | 2週 |
| 標準 | 3分:3分 | 5 | 4 | 8週 |
| 上級 | 4分:2分 | 6~7 | 4~5 | 継続 |
プログラム例
1セットの流れ(標準)
- 準備運動:ゆっくり歩き+関節回し2分
- 速歩3分(RPE12〜15)
- ゆっくり歩き3分(RPE9〜11)
- ②③を5回
- 整理運動:深呼吸+ストレッチ
5-3 計測ツール
- 歩数計/スマートウォッチ:普段より+40〜50歩/分が速歩きの目安
- 心拍計:最大心拍の65〜75 %を維持
第6章 安全に続ける5カ条
- 医師チェック:心疾患・整形外科疾患がある場合は開始前に相談
- シューズ:かかと衝撃吸収+指の付け根の部分がしっかり曲がる
- フォーム:骨盤をやや前傾し、肘90°で後ろに引く
- 痛みは信号:関節痛が出たら中止し原因を評価
- 休息:60歳以上は連続2日休息を挟むと回復がスムーズ
まとめ ――“少し速く歩く”が未来の健康を変える
インターバル速歩は、
- 「VO₂MAXの65〜75%」という“ちょうど良い中強度”
- 道具も時間もいらず、安全性も高い
- 血管・筋肉・骨・脳へマルチに働きかける
――という利点を持ち、日々のウォーキングを「トレーニング」へ昇華させるシンプルな方法です。まずは2分速歩+4分ゆっくり×3セットから。今日の一歩が、10年後のあなたの体力を支えます。
インターバル速歩を続けるのに役立つ道具
シューズ:アルトラ
ランニングウォッチ:ちなみに、私はSeries 8を現役で使ってます。



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